雇用契約とは?締結の流れや法令遵守の観点で抑える4つの視点も解説

公開日:2024.09.25

雇用契約とは?締結の流れや法令遵守の観点で抑える4つの視点も解説

この記事で
わかること

  • 雇用契約の基礎知識
  • 雇用契約締結の流れとポイント
  • 雇用契約業務を効率化する方法

目次


企業や事業主が、正社員や契約社員、パートタイム・アルバイトなどの形態で従業員を雇うには、労働者と雇用契約を結ぶ必要があります。

雇用契約には、労働基準法などさまざまな法令が関係しているため、「難しい」「煩雑だ」と感じる人事担当者の方も多いでしょう。

本記事では、企業の人事担当者や、人を雇用したいと考えている事業主の方に向けて、雇用契約の基本的な内容から流れ、法令遵守のポイント、効率化する方法まで、わかりやすく紹介します。雇用契約の概要を知りたい方や、効率化したいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

※2024年7月時点での情報です。

人材不足についてのお悩み解決のヒントに!

1.雇用契約とは

雇用契約とは、労働者が企業や事業主に対して労働に従事することを約束し、それに対して企業や事業主が労働者に報酬を支払う報酬を与えることを約束する契約のことです。

企業や事業主が労働者と雇用契約を結ぶことで、労働者は労働法上のさまざまな保護を受けられるようになります。たとえば、労働保険・社会保険へ加入できるようになることや、有給休暇が取得できるようになること、使用者からの一方的な解雇が禁止されることなどがあげられます。

企業や事業主にとっては、労働者保護やトラブル防止などの観点から、雇用契約に関連する法律を遵守し、労働者と雇用契約を結ぶことが大切です。

雇用契約には、いくつかの法律が関連しています。以下の表に、雇用契約に関連する主な法律をまとめました。コンプライアンス違反を防ぐためにも、主要な法律をおさえておきましょう。

▼雇用契約に関連する主な法律

横にスクロールします

労働基準法 労働者の基本的な権利を守るための法律。違反があった場合には労働基準監督署による監督指導などが行われる。刑事責任を追及されることもある。
パートタイム・
有期雇用労働法
パート・アルバイト・契約社員の適切な労働環境を確保するための法律。正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」。違反があった場合には、労働局による行政指導や罰則がある。
労働契約法 労働者と使用者(雇用主)間の契約における基本ルールを定めた法律。契約に関するトラブルを防止するために、民事上のルールとして定められている。

労働契約との違い

雇用契約とよく似た言葉に、労働契約があります。両者の違いは、雇用契約が民法上で用いられる概念である一方、労働契約は労働基準法や労働契約法などの労働関係法規における概念です。

雇用契約と労働契約の意味の違いについて、それぞれの定義をみていきましょう。民法では「雇用」という言葉について、以下のように定義されています。

(雇用)
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
参考:e-Gov法令検索「民法 第六百二十三条(雇用)」

一方、「労働契約」という言葉は、労働契約法で以下のように定義されています。

(労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
参考:e-Gov法令検索「労働契約法第六条(労働契約の成立)」

このように、定義上では細かな文言が異なっています。しかし、雇用契約と労働契約は、厳密に使い分けられているわけではありません。専門家の間でも、両者を同じとする立場と違うとする立場で意見が分かれています。実際の裁判例でも、雇用契約と労働契約は必ずしも区別されているわけではないのです。

そのため、人事労務の実務上では、ほぼ同義として扱われることが一般的なようです。

また、本記事でも、雇用契約と労働契約を同義として解説していきます。

業務委託契約との違い

業務委託契約とは、特定の業務を他社やフリーランス・個人事業主などに委託する際に締結する契約形態のことで、そもそも「雇用」にはあてはまりません。雇用契約との違いとして、雇用契約は民法で定義されているのに対し、業務委託契約は法律で定義されていないことが挙げられます。

そのため、雇用契約を締結した労働者は労働基準法などの法律の保護を受けられますが、業務委託契約を締結した労働者は法律の保護を受けられません。

なお、業務委託契約は細かく以下3種類に分けられます。

横にスクロールします

業務委託契約の種類 概要
請負契約 発注した仕事の完成や成果物の納品を目的とした契約。
委任契約 依頼者に業務の提供を行い、その過程が成果物として扱われる契約。主に法律行為の委託が該当する。法律行為とは当事者間の合意によって法的な効力を生じるもので、「売買契約」などが該当する。
準委任契約 依頼者に業務の提供を行い、その過程が成果物として扱われる契約。主に事務作業に関連する業務の委託が該当する。

2.雇用契約の対象者

労働者を以下の形態で雇用する場合、雇用契約を交わす必要があります。

  • 正社員(短時間正社員を含む)
  • 契約社員(有期労働契約)
  • パートタイム・アルバイト

上記をしっかりと区別して、雇用契約を締結するべき労働者がどのような形態なのか、把握しておきましょう。

3.雇用契約を締結する流れ

雇用契約を締結する流れは、以下のとおりです。

雇用契約を締結する流れ

ステップごとに、遵守すべき法律に基づいてわかりやすく解説します。

Step1.必要な書類を用意する

雇用契約に用いられる書類は、主に「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2種類です。それぞれ、以下のような特徴があります。

横にスクロールします

書類名 内容 労働者の合意 書面交付※1が必要か
労働条件通知書 企業・事業主が、労働者に労働契約締結時に労働条件を明示するための書類 不要 必要
雇用契約書 企業・事業主と労働者が契約に合意したことを示す書類。一般的には内定日や入社日に渡される 必要 口頭でも可

労働条件通知書は、労働基準法により書面による交付が義務付けられている※1ので、必ず作成する必要があります。

一方で、雇用契約書は労働者の合意があれば口頭でもよいとされており、書面交付は義務付けられていません。つまり、作成するかどうかは企業・事業主の判断に委ねられているのです。しかし、仮に労働契約をめぐりトラブルになった際に有効なのは雇用契約書なので、トラブルを避けるために用意しておくのがよいでしょう。

なお、雇用契約書は労働条件通知書と兼用できます。労働条件通知書の要件を満たした雇用契約書を作成することで、書類作成の手間が軽減できるでしょう。

※1 書面による交付について:「労働基準法施行規則」の改正により、2019年4月から労働者が希望した場合は電子メールやFAX、SNSなどでも可能となっている。

Step2.労働条件を定める

次に、労働基準法やパートタイム・有期雇用労働法に基づいて、対象者に合わせた労働条件を定めます。

各法律において、労働者への明示が義務付けられている項目は以下のとおりです。

絶対的記載事項(書面交付が義務付けられている項目)

  • 労働基準法
    • 契約期間
    • 就業の場所(変更範囲を含む)
    • 従業すべき業務に関する事項(変更範囲を含む)
    • 始業・終業の時刻
    • 所定労働時間を超える労働の有無
    • 休憩時間
    • 休日・休暇
    • 労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
    • 賃金(基本賃金、計算方法、締切日、支払日、支払方法、昇給など)
    • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  • パートタイム・有期雇用労働法
    • 昇給の有無
    • 退職手当の有無
    • 賞与の有無
    • 相談窓口

さらに、有期契約労働者に対しては、以下の内容を明示する必要があります。

  • 契約更新の基準
  • 更新上限の有無と内容
  • (無期転換ルール※2に基づく無期転換申込権が発生する場合)無期転換申込機会、無期転換後の労働条件

※2 無期転換ルール:同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えるときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換する制度のこと。

相対的記載事項(定めていない場合、明示しなくてもよい項目)

  • 退職手当(適用範囲、手当の計算方法・支払方法など)
  • 臨時に支払われる賃金や賞与
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰・制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

Step3.合意を得て書面を交付する

最後に、定めた労働条件を労働者に明示し、労働者の合意を得た上で書面を交付します。

トラブルを避けるために、手続きの際は労働者へ書面を見せながら口頭で丁寧に説明することが重要です。その上で、企業・労働者の双方が署名・捺印した書面を取り交わすようにしましょう。

なお、書面の交付は、労働者が希望した場合は電子メールやFAX、SNSでも可能です。

また、雇用契約を締結するタイミングは内定から入社までの間か、初出社時が一般的です。雇用契約が遅れると内定者を不安にさせてしまうことがあります。そのため、採用フローの中に雇用契約の締結をあらかじめ組み込んでおくことが大切です。締結時期や流れについて、内定者へ事前に案内すると親切でしょう。

雇用契約に関する業務の効率化も「Nにおまかせ!」

詳しくはこちら

4.雇用契約における法令遵守のポイント

雇用契約を結ぶ際は、法令遵守の観点から以下に気をつける必要があります。

  • 契約期間を守る
  • 書類に禁止事項を書かない
  • 契約の変更・終了について知っておく
  • 法改正による変更点をおさえる

これらの気をつけるべきポイントについて、それぞれ整理して紹介するので、ぜひ参考にしてください。

契約期間を守る

雇用契約には有期雇用契約と無期雇用契約があります。両者の違いや雇用期間の定めがあるかどうかです。

有期雇用契約の場合、法令によって契約期間が定められているため、法律に則って契約期間を定めることが重要です。主な法令やルールは、以下のとおりです。

契約期間について

  • 契約期間に定めのある労働契約(有期労働契約)の期間について、原則として上限は3年。専門的な知識などを有する労働者、満60歳以上の労働者との労働契約については、上限が5年。(労働基準法)
  • 契約期間を必要以上に細切れにしないよう配慮しなければならない。(労働契約法)

有期雇用の契約期間を超えて契約を更新する場合には、あらためて労働者にいくつかの労働条件を明示する必要があります。また、有期労働契約が5年を超えた場合には、労働者からの申し込みがあれば無期労働契約への転換に応じなければなりません。最新の法律を確認しながら適切な手続きを取りましょう。

参考:「厚生労働省|労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)」
  (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index.html)

書類に禁止事項を書かない

労働基準法により、以下の3点については契約に盛り込んではならないと定められています。

契約に盛り込んではならない事項

  • 労働者が労働契約に違反した場合に違約金を支払わせることや、その額をあらかじめ決めておくこと。(労働基準法第16条)
  • 労働することを条件として労働者にお金を前貸しし、毎月の給料から一方的に天引きする形で返済させること。(労働基準法第17条)
  • 労働者に強制的に会社にお金を積み立てさせること。(労働基準法第18条)

上記に関する事項については、契約書類に記載しないようにしましょう。なお、労働基準法に違反している内容は、記載したとしても無効となります。

参考:「厚生労働省|人を雇うときのルール」
  (https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/koyou_rule.html)

契約の変更・終了について知っておく

雇用契約の変更や、終了時の対応についてあらかじめ知っておくことも重要です。以下、雇用形態の変更・終了における主な法令やルールを紹介します。

契約の変更について

  • 労働者と使用者が合意をすれば、労働契約を変更できるが、就業規則に定める労働条件よりも下回ることはできない。(労働契約法)

契約の終了について

  • 解雇する場合、30日前に予告を行うことや、予告を行わない場合には解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払うことが必要となる。(労働基準法)
  • 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、権利を濫用したものとして無効となる。(労働契約法)
  • 契約期間に定めのある労働者については、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間において労働者を解雇することはできない。(労働契約法)

参考:「厚生労働省|労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)」
  (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index.html)

法改正による変更点をおさえる

政府は企業に対して働き方改革を推進しており、労働関係の法律を随時施行・改正しています。

近年では、主に以下のような法改正が行われました。

横にスクロールします

法律名 内容
労働基準法施行規則 2024年4月、改正により労働条件の明示事項が追加された。
パートタイム・
有期雇用労働法
2020年4月から施行。2021年4月には中小企業にも適用され、全面施行となった。

雇用契約には、民法、労働基準法、労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法など、さまざまな法律が関わってきます。法改正があった場合には、企業や事業主は迅速に内容を確認し、通達にしたがって対応しましょう。

5.雇用契約を効率化する3つの方法

企業や事業主が人を雇用する上で、雇用契約は欠かせません。しかし、雇用契約にはさまざまな法律が関わっているため、手続きが煩雑になりやすい傾向にあります。企業や事業主としては、なるべく効率化したい業務の一つでしょう。

ここでは、雇用契約の手続きを効率化する方法について、以下の3つをご紹介します。

  • 書類のテンプレートを活用する
  • 人事業務の代行サービスを利用する
  • アウトソーシングを活用する

それぞれの詳しい詳細について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

書類のテンプレートを活用する

雇用契約を効率化する方法の一つとして、書類のテンプレートを活用する方法があげられます。テンプレートを活用すれば、書類のフォーマット作成にかかる手間を軽減できるでしょう。

また、紙による手続きを廃止して電子化することで、さらなる業務効率化が期待できます。インターネット上で書類を作成し労働者への送付を行えば、よりスムーズに業務を進められるでしょう。

厚生労働省の公式サイトでは、労働条件通知書のテンプレートをダウンロードできます。公的に活用が推進されているものなので、確認してみてください。

参考:「厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」
  (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html)

人事業務の代行サービスを利用する

人事業務の代行サービスを利用し、人事労務や人材採用などの業務を外部に委託することで、時間効率を高める方法もあります。

企業や事業主が人材を雇うまでには、採用から労務に至るまで多くの事務作業が発生します。たとえば、人材採用における日程調整や応募書類の管理、人事労務における手続きの処理や契約書類の管理などです。

このような業務に多くの人手が割かれている場合には、代行サービスを利用し、事務処理や管理といった定型的な事務作業を外部に委託する方法がおすすめです。定型業務を外部に委託することで、経営者や人事担当者が事務作業に時間を取られずに済み、コア業務に集中しやすくなるでしょう。

アウトソーシング(業務委託)を活用する

正社員や契約社員、パートタイム・アルバイトなどの形態で労働者を雇い入れる場合、労働者個人と雇用契約を結ばなければなりません。

しかし、アウトソーシングを利用する場合であれば、サービスを提供する会社に申し込むことで業務を依頼できるため、個人と雇用契約を結ぶ必要はありません。

アウトソーシングサービスを活用することで、採用活動や労務手続きを行わずに専門人材に業務を委託し、稼働してもらうことができるでしょう。

6.まとめ

雇用契約は、正社員や契約社員などの形態で労働者を雇う際に、企業と労働者が締結する契約のことです。雇用契約を結ぶことによって、労働者は労働基準法や労働契約法などの法律で保護されます。

また、雇用契約を締結する際には、法律に定められた事項を記載した労働条件通知書を作成しなければなりません。さらに、各労働者に合わせた労働条件を策定して、合意を得る必要もあります。

このように、人を雇う際には採用から労務に至るまで多くの事務作業が発生するため、担当者の負担が大きくなりがちです。担当者の業務負担を減らし、スムーズな雇用を実現するには、人材支援サービスを活用し、業務を効率化するのがおすすめです。

「Nにおまかせ!」では、業務環境や職場環境の改善から、採用業務のサポートまで幅広いサービスを提供しています。経験や実績の豊富な担当者に相談ができますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

人材不足についてのお悩み解決のヒントに!