公開日:2024.10.01
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わかること
目次
「仕事量が組織や個人の処理能力を上回り、現場がひっ迫している」。そのような状況に頭を抱えている経営者や管理職の方も多いのではないでしょうか。
業務過多を放置し長時間労働が常態化すると、従業員の離職や健康障害を引き起こすだけでなく、ミスや事故の発生、法令違反といったさまざまなリスクを招く可能性があります。働き方改革やリスクマネジメントといった観点からも、企業は業務過多を早期に発見し、適切な対策を講じることが重要です。
本記事では、企業の経営者や管理職・人事担当者の方向けに、業務過多のリスクや原因について解説するとともに、改善に向けた5つの対策を紹介します。ぜひご一読いただき、業務過多の改善にお役立てください。
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資料をダウンロードする(無料)業務過多とは企業や組織において、従業員に課された仕事量や質が、処理能力や稼働可能時間を大幅に超えた状態を指します。業務過多は、従業員の長時間労働につながるだけではなく、心身の健康にも悪影響を及ぼします。
日本では以前から長時間労働が問題視され、近年では「働き方改革関連法※1」が制定されました。その結果、時間外労働の上限が規制されるなど、国をあげて過重労働をなくしていく動きが広まりつつあります。
業務過多が続くと従業員の心身の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、生産性の低下や離職のリスクが高まります。そのため、企業は早めに業務過多の解消に取り組む必要があるのです。
※1「働き方改革関連法」:平成30年6月29日成立し、7月6日に交付された。令和元年4月1日から施行。
では、どのような状態が業務過多といえるのでしょうか。厚生労働省は「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定し、以下のような基準を設け、労働者の健康管理の徹底を推進しています。
過重労働の基準
時間外・休日労働が月100時間を超えること、もしくは2〜6ヶ月平均で月80時間を超えること。
参考:「厚生労働省|過重労働による健康障害を防ぐために」
(https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000553560.pdf)
過重労働とは、残業や休日出勤が慢性的に多く、月80時間を超える残業で健康障害のリスクが高まることを指し、労災※2認定基準の基礎となった医学的検討結果を踏まえたものから算出されています。
また、労働基準法(36協定※3)では、次の限度時間(期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制を除く)が定められており、特別な事情がない限りこの範囲を超えることはできません。
▼36協定(時間外・休日労働に関する協定)で定める限度時間
横にスクロールします
期間 | 1ヶ月 | 1年間 |
---|---|---|
限度時間 | 45時間 | 360時間 |
ただし、たとえばこの基準を下回っていても、従業員に健康障害のリスクが及んでいる場合や、企業の雇用条件で定めた範囲を超えている場合も業務過多とみなされることがあるため、注意が必要です。
※2 労災:労働災害の略で、業務中に発生した労働者のけがや病気・障害・死亡などのこと。過労死や精神障害なども該当する。
※3 36協定:企業は法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える時間外労働を命じる場合、従業員の代表と協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられている。これを定めた労働基準法第36条を通称「36(サブロク)協定」と呼ぶ。
業務過多とは、仕事量や質が従業員の処理能力や稼働可能時間を大幅に超えた状態を指すとお伝えしました。この状態を放置してしまうと、大切な従業員への負担が大きくなるだけでなく、場合によっては健康障害などを引き起こしてしまいかねません。また、企業そのものにとっても、さまざまなリスクを招く可能性があります。
ここでは業務過多が招く、5つのリスクについて解説します。
業務過多により、従業員のワークライフバランスが悪化すると、従業員が企業に対して不満を持つきっかけになるでしょう。そしてよりよい労働条件の企業へ転職を考える可能性もあります。
一人の従業員が退職すると、在籍する社員の負担が増し、業務過多がさらに悪化するという悪循環に陥ることも考えられます。従業員の離職は、ますます深刻化する人材不足に拍車をかけ、従業員の健康にも悪影響を及ぼしかねません。
また、2023年3月から、上場企業約4,000社を対象に人的資本の情報開示※4が義務付けられるようになりました。これは企業が有する人材に関する情報を、さまざまな指標やデータを用いて社内外のステークホルダーに公開するものです。
これにより、離職率や従業員エンゲージメントなどが可視化され、ステークホルダーが企業を評価する指標の一つになりました。業務過多によって従業員の離職が重なれば、企業への評価が低下してしまうリスクもあるのです。
※4 人的資本の情報開示:2023年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されたことで、人的資本の情報開示が義務化された。
業務過多が続くと、従業員の身体や精神に高い負荷がかかり、怪我やメンタルヘルスの不調といった健康障害が発生するかもしれません。場合によっては、従業員やその家族の人生を大きく変えてしまうことにもつながります。その結果、企業は従業員の休職や離職、労災認定などのリスクを負う可能性もあります。
労働基準法では、使用者は36協定の範囲内であっても、労働者に対する安全配慮義務を負わなければなりません。労働時間が長くなるほど、過労死や脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まることに留意する必要があるのです。
また、労災の対象には怪我だけでなく精神障害も含まれており、労災認定時には、長時間労働も評価対象の一つとなっています。
労災が認定されると、企業にはさまざまなリスクが生じます。労災認定によるリスクの例は以下の通りです。
労災認定によるリスクの例
業務過多により従業員の1日の労働時間が長くなると、疲労が蓄積し、集中力を欠くようになるでしょう。従業員のパフォーマンスが低下すると、仕事のミスや事故が発生しやすくなり、生産性や品質の低下を招く可能性があります。
ミスや事故が発生することで、従業員は自信を失い、さらに仕事のパフォーマンスを悪化させてしまうかもしれません。
ミスや事故などの業務上のトラブルは、業務過多が抱えるリスクの一つです。職場全体の生産性が低下し、ブラックボックス化※5が起こることもあります。
※5 ブラックボックス化:限られた人材しか業務プロセスを理解・対応しておらず、実態がわからないこと。
業務過多に陥ってしまうと、従業員は目の前の既存業務をさばくだけで手一杯という状態になるでしょう。すると、事業拡大や企業の付加価値創造に向け本来業務がおろそかになってしまいます。
業務過多によって本来業務に取り組めない場合、企業は、成長できずに競争力が低下してしまうリスクを抱えることになるでしょう。
従業員の成長の源泉の1つとして、成果や達成感があります。経営層やマネジメント層は、従業員がそのパフォーマンスを十分発揮できるよう、業務量などにも配慮する必要があります。
業務過多を放置してしまうと、従業員の長時間労働を引き起こしやすくなります。万が一事故などの労災につながった場合、企業は労働基準監督署による指導や罰則を受ける可能性があるため、注意が必要です。
次の表は業務過多が招く企業の法的リスクを表にしたものです。業務過多を解消しないと、これだけのリスクを抱えるおそれがあります。
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法的リスク | 内容 |
---|---|
労働基準法に違反した場合の罰則 | 2019年より、36協定で定められている時間外労働に、罰則つきの上限が設けられた。上限(月45時間・年360時間)を超えると、企業には罰則(6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦)が科されるおそれがある。 |
労災認定 | 過労死は重大な社会問題の一つであり、過労死に関わる労災認定の評価基準は随時改定されるなど、国による対策も強化されている。労災認定時には、過重労働の有無(短期間・長期間両方)だけでなく、心理的負荷や身体的負荷も考慮される。 |
労働基準監督署による指導 | 以下の条件に該当した場合、労働基準監督署による指導が行われる可能性がある。
|
これらのことを踏まえ、法令遵守の観点からも、業務過多の改善は早期に行う必要があります。
業務過多が起こると、従業員の健康や企業経営に大きな影響を与えることがわかりました。業務過多により、従業員は心身の健康を損なうだけでなく、仕事への意欲を低下させてしまうかもしれません。もちろん、企業側にとっても経営に影響を及ぼす問題です。
ここでは、業務過多が起きる4つの原因について解説します。
業務過多の最も大きい原因の一つが、人材不足です。業務量に対して、業務をこなせる人員が不足していると、一人ひとりの負担が大きくなります。その結果、休暇取得や業務の引き継ぎなどが難しくなり、業務過多が深刻化することもあります。
たとえば、退職者が出ても新規採用を行わなければ、残った従業員だけで仕事をしなければならず、より業務過多の深刻度が増すでしょう。
このような人材不足に対して、企業が取るべき対策としては、業務をアウトソーシングすることや人材派遣の活用、人材採用の強化を行うことが考えられます。詳しくは「業務過多を改善するための5つの対策」をご覧ください。
「業務の繁閑」は人材不足の原因の一つで、繁忙期と閑散期がはっきり分かれる業種や、突発的業務が発生しやすい業種に起こりやすい問題です。このような業種では、定期的に人材不足が発生します。
たとえば建設業を例にあげると、受注状況によっても必要な人材が変動するため、常に多くの人材を雇用し続けられないこともあります。また、バックオフィス業務では、月末や年末調整の時期に業務が集中し、その時期だけ従業員が残業せざるを得なくなることもあるでしょう。
繁閑の差が激しい業種や業界では、正規雇用者を長期で雇う余裕がないことも少なくありません。かといって派遣社員を雇うほどの予算や業務量はなく、繁忙期を既存メンバーの時間外労働で乗り超えているという企業もあるのではないでしょうか。
業務の繁閑を解消するには、さまざまな業務に対して各分野の専門人材に依頼できる、柔軟なアウトソーシングサービスを利用するのも一つの手です。専門人材は即戦力となり、業務の繁閑を埋めてくれるでしょう。
「社員を雇う程の予算・業務量はない」…そのような場合でも、時間単位でさまざまな業務を依頼可能!スポット※の人材確保は「Nにおまかせ!」
詳しくはこちら※スポット:31日未満の雇用契約者のことを指します。
組織や従業員間の業務配分にムラがある場合、特定のチームや人材に業務が集中することがあります。たとえば特定業種における専門的知識や技術が必要な場面では、技術や知識を持つ従業員に業務が集中してしまいます。
専門的知識や技術は一朝一夕で身に付くものではないため、どうしてもノウハウを持つ従業員に集中しがちです。そうした状態を放置すると、特定の従業員しか担当できない業務が生まれ、業務が属人化してしまうおそれもあります。
業務配分のムラを解消するには、業務の処理方法を標準化していく必要があります。未経験者もしくは経験が浅い従業員でも、業務マニュアルを読めば誰もが対応できるように整えていくことで、知識や技術を社員で共有することが可能になるでしょう。
もちろん業務のマニュアル化だけでなく、必要な研修やトレーニングによる業務の標準化を進め、全体的な業務配分を見直すことも大切です。
「慣例に従って、行わなくてもよい業務を行っている」「効率化できるはずの業務を、非効率なやり方で続けている」といったケースも少なくないでしょう。このように、業務にムダや非効率な点があるのが原因で業務過多が進行していることもあります。
このような場合には、業務全体を俯瞰して仕分けを行いながら、廃止や削減、容易化などを検討する必要があります。業務改善について詳しくは、次章の「④業務改善に取り組む」で解説しますので、そちらもぜひ参考にしてください。
また、IT技術は日々目覚ましい発展を遂げており、昨今ではITシステムの活用によって効率化できる業務も増えています。新たな技術を導入することによって、自動化・省力化できる業務もあるかもしれません。積極的に効率化を行うことで、業務過多の解消や生産性向上につながるでしょう。詳しくは、次章の「⑤脱アナログ作業・IT活用で業務を効率化する」で解説します。
業務過多は、企業にとって多くのリスクが発生するだけでなく、従業員にとっても仕事に対するモチベーションを下げる可能性があります。リスクを回避するためには、業務過多への対策を事前に講じることが重要です。
ここでは業務過多を改善する5つの対策について解説します。
しかし、どれか一つを行えば業務過多が解決するわけではありません。効果を高めるには、複数の対策を取り入れることが大切です。以下を参考にしながら、自社が取り組めそうな対策をいくつか検討してみましょう。
業務過多の原因が人材不足の場合は、アウトソーシングや人材派遣など、外部の専門人材を活用するという方法が有効といえます。特に、会社の業績の先行きが不透明である、あるいは繁閑の差が激しいといった理由で、「一時的に人手を確保したい」「正社員を雇う予算や業務量はない」といった場合におすすめです。
アウトソーシングサービスは、外部から人材とサービスを調達することで、業務の一部を委託し、業務の負担を軽減するものです。アウトソーシングサービスの中には、時間単位で契約できるものもあり、かつ、さまざまな業務を各分野の専門人材に依頼できるといった柔軟なサービスもあります。「さまざまな業務分野で人手やスキルが足りない」というお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご検討ください。
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人材不足が業務過多の原因になっている場合、人材採用を強化する対策も欠かせません。そのためには、採用戦略から見直し、「採用マーケティング」に取り組んでいくのも一つの手段です。
応募者が何を求めているのか、競合他社はどのように企業力を打ち出しているのかなどを分析することで、自社が求める人物像に対して効果的なアプローチ方法を検討しやすくなるでしょう。
企業力とは、企業の知名度やブランド力・イメージ・資本力などを指します。これが高い企業は求職者から人気があり、優秀な人材に出会える機会が増えます。ただし、企業力をアップさせるには、長期的戦略が必要であり、継続的に取り組む必要があるでしょう。
一方で、採用強化を図ることで、オペレーションや事務作業が大幅に増加したために、人事が業務過多になってしまっては本末転倒です。そのような場合は、定型業務を採用代行サービス(RPO)※6に依頼するという方法もあります。採用のリソース確保が難しい場合は、RPOの活用を検討してみるとよいでしょう。
※6 採用代行サービス(RPO):「Recruitment Process Outsourcing(リクルートメント・プロセス・アウトソーシング)」の略語。採用業務を外部に委託すること。
特定のチームや個人に業務が集中している場合、組織やチームのマネージャーが業務配分を是正し、業務を分散することで偏らないようにマネジメントを行う必要があります。
また、業務が特定の従業員に属人化し、スキルの差によって業務の偏りが生じていることもあります。そうした場合は、業務のマニュアル化や研修・トレーニングなどを行うことで、業務の標準化を図りましょう。属人化をなくし業務を分散することで、複数のメンバーで業務ができる体制を整えることが大切です。
実際に、作業のマニュアル化によって従業員の多能工化※7に成功した企業もあります。その結果、同一作業に複数担当を付けることが可能になり、業務過多となった部門に対して、人材を融通し、休暇を取得しやすくした事例もあります。
※7 多能工化:一人の従業員がさまざまな業務を行えるようにすること。
業務のムダを極力削減し適切な業務配分を行うには、業務改善は欠かせません。そのためには、まずは業務の可視化が重要です。可視化することで、業務の流れやボリュームが把握できるだけでなく、重複作業の把握も可能になります。
具体的には、業務の棚卸しを行い、廃止・削減できる業務の有無を確認してみましょう。また、業務を容易化できないかを探ることで分担可能な業務か検討してみてください。
業務改善の視点として、以下の表のような例があげられます。
▼業務改善の視点
横にスクロールします
廃止・削減 |
|
---|---|
容易化 |
|
計画性 |
|
分業・分担 |
|
参考:「厚生労働省|生産性&効率アップ必勝マニュアル」
(https://www.mhlw.go.jp/content/000643409.pdf)
業務過多を軽減するためには、アナログ作業を脱し、ITツールやロボットによる業務効率化や自動化も重要になります。従来は手動で行っていた作業をシステムで自動化し、「脱アナログ」をめざしましょう。
しかし日本はまだ紙の書類を重んじる傾向にあり、押印文化が根強く残っています。そういった業務が多いのであれば、デジタル化できないか検討してみましょう。たとえば紙の書類の削減や、押印をデジタル化することで、業務の効率化や業務負荷の軽減につなげられます。
クラウドシステムやRPA※8、IoT※9、AI※10、OCR※11といったIT技術を積極的に活用し、定型業務の効率化を図りましょう。
※8 RPA:「Robotic Process Automation」の略で、ソフトウェア上のロボットを利用し、コンピューター上の単純な反復作業を自動化できるシステムのこと。
※9 IoT:「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳される。産業機械や電子機器などにインターネットを接続する技術。製造状況を分析したり機器の将来の故障を予測したりするといった用途で用いられるケースも増えている。
※10 AI:「Artificial Intelligence」の略で、人工知能のこと。
※11 OCR:「Optical Character Recognition/Reader」の略で、光学文字認識のこと。書類や帳票に用いられている手書きの文字を読み取り、テキストデータ化することが可能。AIやRPAと組み合わせることで、脱アナログ化や業務効率化の効果が期待できる。
業務過多を改善しないと、企業にさまざまなリスクをもたらし、企業イメージの低下につながるだけでなく、企業の将来性にも影響が及ぶかもしれません。業務の生産性が落ち、ミスや事故につながり、退職者が増え、法的リスクが高まる可能性もあります。
それらのリスクを回避するには、人材不足の解消や柔軟なアウトソーシングサービスの活用、業務配分見直しや業務の効率化といった、複数の改善施策を行う必要があります。
また、改善施策には、業務代行や人材派遣、採用代行(RPO)などの外部リソースを活用するのもよいでしょう。
「Nにおまかせ!」では、企業が抱える業務過多という課題を解決するべく、専門人材採用やITによる業務改善まで、幅広くサポートしています。業務過多でお悩みの企業さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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